人・設備最適組み合わせ管理

橋本 賢一 氏
日本能率協会専任講師・公認会計士
(株)MEマネジメントサービス マネジメントコンサルタント

1 日本の生産性が低い実態を知る

安倍首相は新成長戦略の柱に「生産性向上と人づくり」を掲げ、働き方改革の本命は「生産性向上と人づくり」にあり単なる労働時間削減ではないとした。生産性とは、output(産出)/input(投入)を表すもので、効率性を測る指標として利用されている。一般に生産性というと労働生産性(Labor Productivity)を指すが、労働生産性は労働者1人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したもので、労働生産性=(付加価値額or生産量)/(労働投入量〔労働者数or労働者数 労働時間〕で表す。

日本生産性本部の2014年の労働生産性国際比較によるとOECD加盟35ヵ国中、日本の労働生産性は22位、製造業だけを見ると11位である。就業人口のほぼ70%を占めるサービス業の生産性が低いことが分かるが、製造業の11位は、第1位のスイスの53%、米国の71%の水準である。日本の製造業は「労働生産性の向上は自動化」と思い込み、自動化することが目的のように設備導入した結果がこの数字である。その実態を解明すべく図1に資本生産性と労働生産性の国際比較してみよう。

図1

資本生産性は設備、労働生産性は人の生産性を示す。中間にいる資本装備率が仏独に比較して3倍もあることが、日本は世界に誇る自動化王国であることを如実に示す。アウトプットである付加価値一定とすれば、資本装備率の向上は仏独のように資本生産性が低下し労働生産性が向上するが、日本は必ずしもそうなっていないのは何故だろうか。

2 付加価値の高いものに投資をしているか・・・・マネジメントの課題

生産性とは、output(産出)/input(投入)であり、inputに目を奪われがちであるが、outputこそ重要である。いくらinputである設備・人や時間を削減してもoutput(産出)である付加価値が増えない限り、生産性の向上には繋がらない。

労働生産性が低い第1の要因は付加価値向上に繋がる対象に人や時間が使われていないのではないか。図1では2007年までの設備投資は付加価値が増え労働生産性にも貢献していることが読み取れるが、リーマンショック以降に労働生産性が低下しているのはoutputである付加価値の減少にある。付加価値とは売上高-材料費で、外部購入材料にどれだけ価値をつけて売ったかを示す。付加価値は絶対額なので、国内の人口減や高齢化で消費規模が低下する中では量的拡大は望めず、人口が多く成長している市場がターゲットになる。そして、質的にはモノやサービスに対して対価を支払う顧客価値の高いものを提供しなければならない。こうした戦略の下に経営を導くマネジメント力が問われている。 日本は経営環境のグローバル化に対応する付加価値獲得のマネジメント力が弱いため労働生産性向上に繋がらない。1方、inputの経営資源の投入にも問題がある。

日本の労働生産性が低い第2の要因は、モノ作りの基本である生産要素の最適組み合わせができていないことである。資本装備率が仏独の3倍もあるのに日本の労働生産性が2014年時点では仏独よりも低いことに象徴されるように、日本のモノづくりの設備依存体質に問題がある。どうして、日本が世界に誇る生産設備が労働生産性に結びつかないのか。

3 設備生産性より労働生産性向上が成果に繋がる・・・製造部門の課題

多くの製造業は設備稼働率を現場の管理指標にするのは、設備は止まっているときのロスを低減したいとの意図である。しかし、設備稼働率が向上すると生産性・コストダウンにつながるだろうか。図2は左に設備と右に人のロスを分類したものである。

 

図2

図2右の設備のロスの内訳の中で、稼働率で見えるのは計画停止、停止ロスだけである。設備の標準時間を決めると標準どおり運転できない速度ロスまで管理できる。しかし、これらのロスを低減しても受注が増えない限り、仕事がなくて止まる停止ロスが増えるだけでコストダウンにはつながらない。設備生産性向上の対象になるのは生産能力上のネック設備だけである。ただし設備に人がつき、設備ロスの低減が図2左の人のロス低減に連動すると成果に繋がる。労働生産性が向上して直接労務費低減に繋がるのだ。すると一旦導入された設備はネックの設備生産性だけ、それ以外は労働生産性の向上が焦点になる。

以上は既存設備の生産性の管理のやり方で、過大設備が生まれる根本原因は設備投資の意思決定時にありそうだ。

4 過大設備(資本装備率3倍)の要因・・・・・・生産技術部門の課題

設備投資は生産技術部門がまとめた提案書を審議の上、効果があれば実行に移す。効果アリと判断されても、どうして過大設備となるのだろう。もともと起案者は通らない提案書など描くはずもないので、どこか間違っていることになる。

その原因は図2に示す設備の標準時間の中身にある。標準時間は部品1個の加工時間×生産量で計算するが、予想生産量が過大であることを除くと設備1サイクルの時間が過大である。その内訳は➀加工・変形・変質を伴う基本機能、②部品のセット・リセットである補助機能、➂同期化で生ずるバランスロス、連合作業で生ずる干渉ロスから成る。➁➂は分かりやすいので割愛して➀の基本機能の中に隠れている性能と寸法のロスに触れよう(図2右下の基本機能の余白部分)。

1台の設備で多品種を生産する汎用機の場合、要求される最大条件をクリアする設備を導入する必要がある。要求性能が100t~50t迄あれば最大の100tを、要求寸法が1,000mm~500mmであれば、最大の1000mmがすべて加工可能設備として導入が決まる。しかし、実際には常に最大の性能・寸法で稼働することはなく、設備能力を使い切らない有効利用度のロスが発生する。設備導入時にここまで検討して過大設備が回避されれば完璧であるが、先の②➂のロスさえチェックできていない実態がある。こうして過大設備が生まれる。

また、標準化された部品の大量生産には設備は向くが、欧米に比べて標準化の遅れた日本のモノづくりは、設備には不向きな多種少量生産がベースにある。多様化と自動化の矛盾を同時実現しようとして過大設備という犠牲を払っている実態も無視できない。

5 人は変動費、設備は固定費として管理する・・・・・生産管理部門の課題

生産性の向上に繋がる「人と設備の最適組み合わせ」は設備投資のような改善の側面もさることながら、管理の側面でも課題がある。日本では「直接労務費は変動費か固定費か」の問に変動費と答える比率はようやく50%まで来ている。給与体系が月給制でレイオフなどが馴染まない雇用環境の日本では、直接労務費を固定費として扱っている会社が未だに多い。直接労務費が固定費という国は日本しかない。変動費と固定費の区分は、生産量の増減に比例して1年内に費用が増減するか否かで、負荷=能力にできるか否かで決まる。

図3図3で、負荷工数=能力工数を計画してみよう。1個1時間でできるA製品の受注が100個あると100時間、1個2時間でできるB製品の受注が200個をあると400時間の負荷になる。こうして今月の負荷工数合計は17,000時間になった。能力は、人員×日数×就業時間/人×能率で計算できるので、100人×20日×8時間×100%は16,000時間になる。ここで言う能率は生産性で、標準時間通り生産できる能力を持つと100%の能率という意味である。図3のケースでは1,000時間の能力不足で、1人0.5時間の残業をすると能力工数は17,000時間になり、負荷=能力が実現できる。

ところが、もし負荷が8,000時間しかなかった時、能率・生産性を50%に落とすと能力工数は100人×20日×8時間×50%で、負荷=能力の算式が成り立つ。忙しい時は能率・生産性を上げ、暇なときは能率・生産性を落とすやり方をすると直接労務費が固定費になる。直接労務費を固定費としている企業は管理不在であり労働生産性は向上しないのである。

以上、人と設備の最適組み合わせ管理は、その目的である生産性の向上に繋がるものであることを念頭に各部門の課題に取り組まれることを期待するものである。

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