生産に関わる人達に感じることは? 技術者育成 講師インタビュー② vol.3
生産に関わる人達に感じることは?
ジン・コンサルティング
代表 西村 仁 様
森宮
開発技術、生産に関わる人たちから「最近こういうことに悩まれているな」とか、「なんでこういうこと聞いて来るんだろう?」といった気になることはありますか?
西村
この1年2年という話ではありませんが、特に設計者のスキル向上の面で悩まれていると感じます。設計のスキルを上げようと思うと、当然加工のことも知らないとダメだし、実際の生産現場の苦労がわからないと、図面には反映できません。しかしいまはスピードが求められているので、自分の描いた図面が後工程の生産現場でどのように扱われているのかを知る機会がずいぶんと減っていると思います。
森宮
設計者は、構想して図面を描くスキルだけでないと?
西村
よく「設計で品質とコストは決まる」と言われるように、加工のしやすさは図面で決まりますし、組立調整や保守点検のしやすさも図面で決まります。若手の技術者がスキルをあげるには、自分の描いた図面の良し悪しを実際に現場で把握することが最高の教材になります。この情報は担当された現場の作業者に聞けば、問題点や改善点が山のようにでてきます。これが反省材料となって、より加工しやすい設計、より組立しやすい設計へとスキルアップが図れるのです。
でもいまはスピード対応のために設計と製造が完全に分かれているところも多く、設計者は担当テーマが終了すれば、すぐに次のテーマが入ってくるので、後工程での問題点をフォローする余裕がありません。
森宮
昔はどのようにスキルアップしていたのでしょうか?
西村
わたしは電子部品メーカーで21年間生産設備の開発を担当していました。若手の頃は、1つのテーマを1年間かけて開発できたのです。いまよりも時間的な余裕があった時代です。設備開発はまず企画からスタートです。上司に連れられて企画会議に参加します。この場でどのような議論の中で設備開発の方向性が決まるかが学べます。企画が終わって構想をおこない「仕様書にまとめて見ろ」と指示を受けて自分なりに書いてみると、そこでいろいろな不備があって、上司や先輩に指摘されながら直していきます。それが終わると今度は設計です。設計が終われば部品加工は加工者にお願いするのですが、組立は立ち合いながら進めていきます。組立が終わってからの調整は自分自身でおこなうので、問題点を肌身で感じます。
森宮
まさにOJTの世界ですね。
西村
若かった時代は、その辺りの許容度が今よりもあったので、現場に行って話を聞く時間もあるし、先輩がじっと待ってくれている時間もあるので、充分そこで叩き上げられたのだと思っています。実際はきれいごとではなくてボロクソに言われるわけですが(笑)。
このように前工程から後工程まで通して一連の経験で学んだことはとても身になっていて、徐々に現場の苦労がわかってくるから、次に図面を描くときには当然意識するし、自分で先の不具合も予想できるようになるから「こんなこと絶対もう避けないといけないな」と、スキルが上がっていきました。今は、早く成果を出さないといけないし、時間的に失敗も許されないというプレッシャーが強くなってきているように思えます。
森宮
いまは余裕がなくなってきていると?
西村
半年や1年間製造の現場で修行などということは本当に少なくなっています。配属後3年経って4年経ってその人が独り立ちしていくときの長期のスパンで振り返るともったいないことと思います。それは本人のコントロールできないことなので、会社としての教育方針が大きく影響してきます。
つづく 3/7